学校や自治体、ショッピングモールなどでペットボトルキャップを集めている運動を目にしたことがあると思います。そしてほとんどの場合「キャップを集めてワクチンを寄付しよう」と謳っていますね。もちろんキャップを加工してワクチンが作れるわけではありません。

昔と比べて下火になったと思っていましたが、最近私の会社がSDGsを掲げてやたら熱心に推進し始めました。何となくですが心地が悪く思考停止で参加したくなかったため、この怪しげな運動について調べてみることにしました。

エコキャップ運動の始まり

ボランティア活動をしている女子高校生の「ペットボトルのふたを捨てるのはもったいない」という言葉をきっかけに、2005年に日本労働組合総連合会会長を退任した笹森清が始めた運動。集めたキャップの売却利益はポリオワクチンを贈るために寄付することにし、多くの団体に参加を呼びかけた。
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その後、公共広告機構やJR東日本などのPRによって全国的に認知され、様々な企業が再生ペレットを活用した商品開発を推進しました。こうして子供の発想が社会に一石を投じ、新しいビジネスモデルと技術革新が生まれました。

活動の利点

エコキャップ推進協会によると、リサイクルの促進、ＣＯ２の削減、売却益で発展途上国の医療支援、障がい者・高齢者雇用促進 の4つを目的としています。普段捨てるだけのキャップを集めるだけなので誰でも参加でき社会貢献できる活動です。

確かにペットボトルキャップを焼却処分するとCO2が発生しますし、埋め立てると土壌汚染につながります。これを売却して子供たちにワクチンを届け命を救うことができれば一石二鳥どころではありませんね。

活動の問題点

さて、一見素晴らしい活動に見えますが、エコキャップ運動にはいくつかの問題点が指摘されています。

1. 寄付金よりも輸送コストの方が高い

キャップの買取価格は年々下がっているようで、業者によってバラバラですが1kgあたり約10円です。（ポリプロピレンの市場価格は1kgあたり200円以上とも言われています。）ワクチン一人分の20円を集めるためには、2kg(約860個)ものキャップを集める必要があります。さらにこれを回収するために寄付金よりも何倍も多くの輸送費を払う必要があります。

参考程度に、佐川急便のエコキャップ回収専用サービスを利用すると送料込みで7800円（10袋）ものコストがかかります。現在は回収業者も増え持ち込みで無料回収してくれる施設もありますが、2014年には専用の回収袋が20枚1400円で売られ、唯一の提携運送会社に1袋あたり430円の送料を支払う必要がありました。

1袋780円の輸送コストで送れるキャップは約2500個で、6kg程度になります。つまり、個人や小規模組織が10袋集めたとしても、収益はわずか600円に過ぎません。ポリオワクチンは1人あたり20円ですので、30人分のワクチンに相当します。しかし、輸送コストの7800円や協会の運営費などを考慮すると、全く割に合わないと言えます。これでは現金で送れと言われても仕方ありません。

2. 不透明な運営

NPO法人エコキャップ推進協会はペットボトルキャップを回収売却し、その収益をNPO法人「世界の子供にワクチンを」日本委員会（JCV）に寄付することを宣言しています。しかし、2013年以降、収益が実際にワクチンに充てられていないことがJCVの告発によって明らかになりました。協会は障害者支援に資金を流用していたと説明しましたが、当然支援者からの信頼を失う結果となりました。

当時の矢部理事長は週刊ポストの取材に対し、2013年9月〜2014年8月期の収入約9000万円の使い道について、障害者支援事業（キャップの洗浄・異物除去などの作業委託）に1900万円、人件費が約3900万円、事務所家賃などに約3900万円を充てたと答えました。身内に半分以上還流しています。

3. 焼却よりも二酸化炭素を多く発生させる

プラスチックは金属などの材料と比較してあまりに種類が多い上、化学反応での分離ができないので、資源として利用するにはどうしても手作業での分別が必要になります。さらに現在の技術では、着色されたものは色を変更できず、劣化したものは元に戻すことができません。これらのことからペットボトルが再びペットボトルになることはほとんどありません。

エコキャップ推進協会が第一の問題として挙げている二酸化炭素の増加に問題を絞った場合、分別・洗浄などの過程で発生する二酸化炭素量が焼却によって増える二酸化炭素を上回っているため問題が解決できているとは言えません。

4. キャップをわざわざ分別する必要はない

実はキャップをリサイクルするために別々に回収しなければいけないということはありません。キャップに使われているポリプロピレン（PP）やポリエチレン（PE）は水より軽く、ボトルに使われているポリエチレンテレフタレート（PET）は水より重いため、水に入れることで分離が可能です。— なぜペットボトルとキャップは分別しなければならないのですか？

プレス時に破裂せず、回収時に中身が残らない、というのがキャップを外してほしい回収業者の本来の意図だそうです。中身を空にして潰し、一緒に捨てればいいのです。

結論

以上のことから、エコキャップ推進協会が真の社会貢献を目指しているのかどうかは疑問と言わざるを得ません。今回は怪しいなと思いながら調べたため、かなりバイアスのかかった内容になったかもしれませんが、本質的な問題への取り組みが後回しにされているのではないかと思いました。

人々の「なにか良いことをしたい」という善意につけ込んで高い袋を売り、資源を安く買い取り、収益は自分達に使う、悪質なビジネスだと感じます。

実際プラスチックの廃棄は世界中で深刻な問題となっているようですが、環境問題とワクチンは全く関係ありませんし、わざわざエコキャップ推進協会の推奨する業者に安く叩き売る必要は全くありません。「〇〇人分のワクチンを寄付しました」という紙切れを見せびらかすためにどれほどお金や資源を無駄するのかよく考える必要がありそうです。

そもそも私は「こんなに環境に配慮しています」「こんなに募金しました」「環境に優しい素材を使っています」とデカデカとアピールしている人たちを信用しません。本当は環境に配慮していないにもかかわらず、しているように見せかけて商品やサービスを提供することをグリーンウォッシュと言うそうですが、上辺だけの欺瞞がSDGsの足かせになってるんじゃないかと思うほどです。2021年フランスではこれを処罰する法律ができました。

環境への意識が少なからず高まっている中、日本でも良心を利用して儲ける企業が少しでも減り、それぞれが本質に目を向けられるようになりたいですね。

ペットボトルキャップ集めの真実